コールセンターの「人材育成」「研修」について考える

1.コールセンターの人材育成は難しい

コールセンターの運営コストのうち、8割を占めるとも言われるのが人件費です。したがって、高いレベルの人材を育成することは、コールセンター運営において重要な課題です。

人材育成に課題があると、生産性や応対品質に直接影響するだけでなく、コミュニケーターのモチベーション低下につながり、人材定着の阻害要因になりかねません。しかしながら、人材育成や教育が円滑に行われているコールセンターばかりとは限りません。

実際、多くのコールセンターからは切実な声が寄せられています。

「高品質な応対を目指しているが、現実はほど遠い」
「お客さまからのご指摘が減らない」
「離職が多く発生している」
「コミュニケーターの従業員満足度(ES)が低い」
「教育部門と現場との連携がうまく機能せず、どちらにもストレスが発生している」

このような声があがるのは、研修を実施しても効果はその直後だけで、現場では学習したことを活かしきれていないためでしょう。実は人材育成を考える際に、「研修」だけにフォーカスしていても、なかなか成果にはつながらないため、もっと広範囲な「人材育成」という枠組みで考えることが重要なのです。

2.教育品質部門とスーパーバイザーの連携

市場通信では、これまでいくつものコールセンターの教育現場をみてきましたが、教育品質部門とスーパーバイザーの連携がうまくいっているところは少ないです。むしろ、お互いに「もっときちんとやってくれればいいのに・・・」と思っているケースもあるかもしれません。

あるコールセンターでその原因を探ると、答えはとても明確でした。教育品質部門とスーパーバイザーが集ってコミュニケーター育成について話し合う場が、そもそも存在しなかったのです。そのような環境では、双方の思いや抱えている事情を共有することもできず、協力しあって質の高い教育を実現させるのは難しいのでは。

この場合、担当者からの発信で定期的な会議を設定すること自体簡単ではないことから、センター側で実施目的を明確にして開催をするのがよいでしょう。

中規模以上のコールセンターでは、品質管理部門が孤立しがちです。現場組織がいくら大きくても、教育品質の部門は5~10名程度の組織であることが多く、発言権もあまりありません。現場のスーパーバイザーたちからすると、「品質向上を訴えるのは簡単だけど、実際にコールの現場をみていないから言えること」と、協力者というよりも傍観者のように見えてしまうことさえあります。

また、コールセンターの人材育成を考える際、「コミュニケーターの視点」も重要です。いつ、どの場面においても、常に同じ方針に沿った指導が受けられる環境でなければなりません。例えば、モニタリング+フィードバックでは「傾聴や共感」が課題だと言われたので、応対の場で意識をしながらお客さまと話していると、スーパーバイザーからは次のように言われることもあるようです。「お客さまの話を優しく聞いていると、おしゃべりが止まらなくなるから、なるべくあっさりと話してね」と指導されたということも残念ながら決して珍しくありません。しかし、これでは、コミュニケーターは迷うばかりか、センター内の指導にさえ疑問を感じることでしょう。

3.人材育成は「研修」や「モニタリング」だけではない!

では、どのようにしてコミュニケーターを育成し、高い応対品質やお客さま満足、セールス実績を得るのがよいのでしょうか。

コミュニケーター育成=研修といった発想で、「○○の課題があるから研修を実施しよう!」と研修が企画されることも多いのですが、研修のほんの数時間だけでスキルレベルを飛躍的に向上、定着させることは難しいのが現実です。

そこで、市場通信では、研修を「インプットの場」、その後の現場での実践学習を「定着の場」、さらに定期的なモニタリング+フィードバックを「確認と承認の場」と位置づけ、それぞれのプロセスをうまく連携させながら循環させることで高い効果をあげています。

「応対の現場で個々のコミュニケーターを指導すること」や「モニタリングでスキルレベルをチェックすること」は当たり前だ、と思われるかもしれません。しかしながら、これらの活動が連携しているケースはまれです。

たとえば、現場では研修などのトレーニング内容を踏まえたフォローが行われているでしょうか。現場のスーパーバイザーはモニタリング項目を深く理解し、自分の言葉で指導することができるのでしょうか。

電話応対を磨くのはそんなに簡単ではありません。肝心なのは、研修や現場指導、モニタリング+フィードバックといった各種の学習機会を通じて、少しずつ学びを塗り重ねることです。そうしていくと、学んだことが定着し、応対の中で自然と発揮することができるようになります。

4.コールセンター[3STEPトレーニング]

以下は市場通信が提唱する[3STEPトレーニング]です。

ではここからは、この図を解説しましょう。

[STEP1]研修によるインプット
ここでは、理想の応対を明確にした上で、現在の改善すべき点や、新たに取り入れたいことを学びます。電話応対の場合、「わかる」と「できる」には大きな乖離があるため、研修時間のなかで、「どう話せばいいのか」ということをしっかりと持ち帰ることができるようにします。

そのため、いろいろな音声を聞いたり、声に出してスクリプトを読んだり、ロールプレイングを行うなど、体験型の学習をします。ロールプレイングは大変有効な学習手段ですが、1~2回では、実際にお客さまとの会話で実践できるようになるわけではありません。感覚的にコツをつかみ、「できそう」と思えるぐらいまでに導くのが研修でのゴールです。

[STEP2]現場での実践学習による定着
ここでは、研修で学習したことをお客さま応対の現場で反復学習し、実践します。このステップで定着を目指す場合に、現場の声として聞こえてきそうなのが「スーパーバイザーはオペレーション管理にほとんどの時間を割いているため、コミュニケーター指導に回せる時間はほぼないのが現実」という声です。

実際、その通りだと思いますが、安心してください。大掛かりで手間のかかる教育プロセスをプラスするのではなく、日々の声かけや指導の精度を高くするのです。また、工夫して、人材育成に向けて1日のうちのほんの少しの時間を作るだけでも、そのなかでできることはたくさんあります。

毎日、大切なことを言い続けることも重要です。仮にあるコールセンターのミッションが「お客さまからの『感謝』をいただける応対」だとするならば、例えば、朝礼では「今日も、お客さまから「ありがとう♪」と言われるようにみんなで頑張りましょう」とか、「○○さん、最近の応対でお客さまから感謝されて嬉しかったことありましたか?」とメッセージとして言い続けることにより、ミッションは浸透してくるものです。センター内に大きなミッションが書かれた横断幕を貼っただけよりもずっと効果があります。

[STEP3]モニタリング+フィードバックによる確認と承認
ここでは、定期的に行われるモニタリングとフィードバックでコミュニケーター育成をしていきます。モニタリング、フィードバックでは、は、品質管理部門がすべて担当するケースと、評価は品質管理部門が担当しフィードバックは現場のスーパーバイザーが行うケースの二通りがあります。

もし、前者である場合は注意が必要です。フィードバックはコミュニケーターと指導者の2人のみ(時にはオブザーブがいて3人)で行われることが多く、その場の会話のやりとりや雰囲気はそのときにいた人しかわかりません。もし、品質管理の担当者からフィードバックをしている場合は、現場のスーパーバイザーと連携を取り、今回のモニタリング結果の概要や指導内容、本人の反応などを共有し、スーパーバイザーはその後のフォローに活かしていくのがよいでしょう。

また、フィードバックは結果を共有することが目的ではありません。よく、モニタリングシートに書かれた内容を一緒に読んで、その後、本人と話し合いをした上で今後の「意識したい項目」を決めていくといった手順で行われていますが、それではなかなか変化を促すのは難しいかもしれません。

効果的なフィードバックについては後日また別のコラムでお伝えするとして、フィードバックで大切なのは、コミュニケーターが「どう話せばいいのか」を具体的にイメージすることで、そのためにはロールプレイングが欠かせません。

5.まずは現状把握から

コールセンターに[3STEPトレーニング]のご提案をすると、最初は大掛かりな印象があるのか、やや引いた反応が帰ってくることもありますが、一度にすべてを連携させるのではなく、少しずつ時間をかけていきながら整えていくことが、現場の混乱もおきず、最終的には最も近道であることをお伝えしています。

いかがでしたでしょうか。まずは、現在のコールセンターの人材育成の全体像を整理してみると、色々と改善すべき点に気づけるかもしれません。今後のセンター運営の一助にしていただけましたら幸いです。

コールセンターコンサルタント 石橋由佳

サービスのご紹介

市場通信の研修は、オリジナルのテキストやロールプレイングを取り入れ、楽しみながらアタマとカラダで吸収することができるカリキュラムです。研修を検討した背景に着目し、明確なゴールを見据えた学習をご提案します。

コールセンターの要であるスーパーバイザーへの研修は、センターの実情に合わせて柔軟にカスタマイズした研修カリキュラムをご提供します。「わかる」を「できる」に変える実践型トレーニングです。